"Q.A.S.B.III" 楽曲解説シリーズもいまだ全曲進んでいないですが今回は一休みして、趣味の映画の話を一つ。
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1990年代〜2000年代前半くらいまではかなり頻繁に映画館に通っていまして、年間50本くらい観ていた年もあったのですが、ここ最近はめっきりペースが落ちてしまいました。
ジャンル的には仏・ヌーヴェル・ヴァーグをコアに1960年〜90年代のフランス、ドイツ、イタリア、ロシア、イギリス、スウェーデンあたりが好みですが、香港、韓国、日本の映画もそこそこ観てたと思います。
そんな中でとりわけ衝撃の強かった映画の一つに ジャック・ベッケル (Jacques Becker) というフランスの監督が死の直前に完成させた「穴 (Le Trou)」(1960) があります。
実際にあったというパリの脱獄囚の話がもとになっていて、5人の囚人が協力して毎晩トンネル (Trou) を掘って脱獄を試みるという、これだけの説明だとギャグにしかならない話ですが、モノクロフィルムの重苦しい雰囲気の中、一癖も二癖もある囚人たちが見回りの警備の目を巧みにそらしつつひたすら穴を掘り続け・・・
ヒッチコックのサスペンスも凄いですが、極めて静的な息苦しくなるようなサスペンス。それでいて5人の人間模様がユーモラスに語られるところは笑いも誘います。
エンディングは敢えて語りませんが、結末は映画館の中でも思わず声を出してしまうほど衝撃でした。
ちなみに出演者は一人を除き全員職業俳優ではなかったそうです(後に俳優になった人はいます)。その一人が囚人の一人。つまり主人公なのですが、ジャック・ベッケル監督はなぜその役だけはプロの俳優に任せたかという理由を語っていて、それは「俳優はウソをつくから」というものでした。実際結末(というか真相)は映画では語られないものの、この「俳優はウソをつく」という答えが真相を語っているように思われます。
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で、なぜこの映画に衝撃を受けたかという理由がもう一つありまして、それは映画の中での音の扱いでした。会話シーン以外は、ほぼトンネルを掘るカンカンという強烈な金属音のみ。音楽は一切ナシ。
この映画に音楽なり音響を加えてよりショッキングな効果を演出することは容易に思いつきますが、これを敢えてしなかったところが成功だったと思います。
ところが、エンディング・ロールで初めてピアノの小品(ロシアの作曲家 Anton Rubinstein の "Melody in F" 「へ調のメロディ」として知られる曲を半音下げて編曲したもの)が流れます。この重苦しい雰囲気を少しずつ解凍させる効果は生前に完成した作品を観ることができなかったジャック・ベッケル監督のおだやかなメッセージにも聴こえます。
実はこの映画を観るまであまり意識していなかったのですが、「映画と音楽の関連性」というものを強く意識するきっかけになりました。
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ちなみに、この「穴 (Le Trou)」を観たのは六本木ヒルズ建設のため取り壊されてしまった CINE VIVAN (シネ・ヴィヴァン)(地下一階)。このビルは今は無きレコード・CDショップ WAVE や美術書専門の ART VIVAN (アール・ヴィヴァン) などが入っていて、近くの青山ブックセンターや 同じく取り壊されてしまったクラブ Yellow (のちの Eleven) と共に1990年代によく訪れた場所。 六本木の WAVE は良質音楽がセレクトされていてホントよくお世話になりました。
というところで、次回は楽曲解説に戻ろうかなと思ってます。
それではまた〜
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